福岡地方裁判所 平成4年(ヨ)525号 決定 1992年12月10日
債権者
森茂信
外一九名
右債権者二〇名代理人弁護士
市川俊司
同
服部弘昭
同
石井将
債務者
梅谷吉蔵産業株式会社
右代表者代表取締役
梅谷吉幸
右代理人弁護士
塚田武司
同
德永高
同
廣瀬哲夫
主文
一 債権者らが債務者に対しいずれも雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者らに対し、平成四年九月から平成五年八月まで、毎月二七日限り月額別紙一債権目録記載の金員をそれぞれ仮に支払え。
三 債権者らのその余の申立てをいずれも却下する。
四 申立費用は債務者の負担とする。
理由
第一申立て
一 債権者らが債務者に対しいずれも雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者らに対し、平成四年六月二六日から本案判決確定に至るまで、毎月二七日限り月額別紙二(略)請求債権目録記載の金員をそれぞれ仮に支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 債務者は、生コンクリートの製造販売等を業とする株式会社であり、従業員数は約六〇名で、本社(新宮)工場、那の津工場及び久山砕石工場(昭和六三年八月以降操業中止)を有していた。
2 債権者らは、いずれも債務者に雇用され、後記解雇に至るまで、生コンクリートミキサー車(以下「ミキサー車」という。)及びダンプ車の運転業務等に従事していた者である。債権者らは、平成三年五月二七日、労働組合を結成し、同日、右労働組合は、全国一般労働組合福岡地方本部に加入し、梅谷吉蔵産業分会として発足した。
3 債権者らは、平成四年二月二七日、福岡地方裁判所に対し、債務者を相手方として、賃金仮払仮処分申立て(福岡地方裁判所平成四年(ヨ)第一四一号事件)をしたが、同年五月一四日、債務者との間で、別紙三和解条項(略)記載の和解(以下「本件和解」という。)を成立させた。
4 債務者は、債権者らのうち従前組合員待機室に待機していた一六名(債権者らのうち松岡哲正、本郷峰男、渡勝昭、浦元宏文を除くもの。以下「待機債権者ら」という。)に対し、本件和解成立後の同月一八日、ミキサー車の乗務のほか、ダンプ車乗務及び久山砕石工場での作業を命じたところ、待機債権者らは、債務者の同債権者らに対する配車割当及び右砕石工場作業の業務命令は本件和解条項に違反し、同債権者らの労働組合を差別するものであるとして右砕石工場作業及びダンプ車乗務を拒否した。債務者は、待機債権者らに対し、同年五月一九日以降、砕石工場作業については業務命令としていたのを協力要請と改めたうえ、ダンプ車乗務及び本社(新宮)工場での構内作業については従来どおり業務命令を発したが、待機債権者らは、いずれも右各作業を拒否した。
5 債務者は、債権者らが本件和解の趣旨に反し、業務命令に違反して職場の秩序を乱したとして、同年六月二五日、債権者らに対し、同日付けを以て債権者らを通常解雇する旨の各意思表示をなした(以下「本件解雇」という。)。
二 争点
1 債権者らの主張
(一) 被保全権利
(1) 本件和解により、待機債権者らは、平成四年五月一八日から一か月間は三七台中八台(ただし、実稼働台数が三七台未満のときは、実稼働台数に八を乗じ三七で除した台数)の配車を受けることになった。しかし、債務者は、同日、非組合員を全員ミキサー車に乗務させながら、待機債権者らには僅か三台のミキサー車しか配車せず、残る一二名に対しては、久山砕石工場作業を、一名に対しては、ダンプ車乗務をそれぞれ命じ、同年六月一七日まで同様の業務命令を続けた。このように、非組合員を全員ミキサー車に乗務させながら、組合員である待機債権者らには三台しか配車しないのは、本件和解条項に違反するものである。また、久山砕石工場は国有地で、昭和六三年以降、福岡営林署から採石及び搬出を禁止されており、久山砕石工場での作業は、本件和解条項に言う通常の業務とは言えないものであり、債務者が乗務を命じたダンプ車は、当時廃車予定で長期間使用されておらず、実稼働台数の対象とされていなかった車両であるから、右砕石工場での作業及びダンプ車の乗務の業務命令はいやがらせ以外の何物でもなく、明らかに組合員を不当に差別するものである。
(2) 本件和解によると、債務者は、平成四年六月一八日以降、当日の実稼働台数を全従業員中の乗務員に公平に割り当てることになっていたところ、債務者は、同月一八日、非組合員を全員ミキサー車に乗務させたうえ、外部傭車まで入れておきながら、待機債権者らには、一三台しかミキサー車を割り当てず、残る三名に対して、工場内作業を命じ、以後もほぼ同様の、和解条項を無視した組合差別を続けた。しかも、債務者は、本件和解条項に違反して、債権者らに対して、不当に低額の賃金を支給した。
(3) 以上のとおり、債務者の業務命令等は、本件和解条項に違反し、業務命令権限を濫用したものであって、待機債権者らが右命令に従わなかったのは合理的な理由があり、就業規則違反や秩序違反には当たらない。
(4) 債務者は、債権者らのうち待機債権者らを除く四名の者(前記松岡、本郷、渡、浦元の各債権者であり、以下「四名の債権者」とも言う。)に対しても、待機債権者らと同じ理由で解雇しているが、四名の債権者は、本件和解における配車割当の対象外で、従前からミキサー車及びダンプ車に乗務していた者であるから、前記業務命令とは全く関係がなく、解雇理由は根拠がない。
(5) したがって、本件解雇は、解雇の理由がないのになされたものであって解雇権を濫用したものであり、しかも、債権者らの結成した労働組合を嫌悪し、労働組合破壊の目的でなされたものであって、労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為であるから、違法無効である。
(6) 債権者らの賃金は、毎月一〇日締切り、当月二七日払いであるところ、債権者らの一か月の平均賃金額は、平成三年一一月以降本件に至る一連の紛争の中で債務者によって不当に減額されているので、それ以前の同年八月から同年一〇月までの三か月平均によるのが相当であり、別紙二請求債権目録記載のとおりとなる。
(二) 保全の必要性
債権者らは、いずれも、債務者から支給される賃金をほぼ唯一の収入として一家の生計を維持していたところ、本件解雇により収入が途絶え、このまま賃金不支給の事態が継続すると、その生活が破綻し、回復し難い重大な損害を被るおそれがある。
2 債務者の主張(被保全権利について)
本件和解条項によれば、通常の業務には、乗務のほか債務者の各工場におけるその他の作業を含むとなっており、ダンプ車乗務、砕石工場作業及び本社工場作業は、いずれも通常の業務に当たるところ、待機債権者らは、右和解条項に違反して、これらの就業を拒否したものである。また、四名の債権者のうち、債権者松岡及び同本郷は、ダンプ車には乗務するものの、出発時刻、帰社時刻の指示に従わない、発車前の点検等を行わない、構内作業に従事しないなどの態度をとり続け、同渡及び同浦元は、時間外勤務や構内作業の指示を拒否し続けた。
したがって、債権者らによる右各業務命令違反行為は、明らかに本件和解の趣旨に反し、正当な業務命令に違反し職場の秩序を乱したものであって、就業規則三四条九号の懲戒解雇事由に該当することは明らかであるところ、債務者は、これを通常解雇としたのであるから、本件解雇は、正当なものであり、解雇権の濫用にも不当労働行為にも当たらない。
第三当裁判所の判断
一 まず、被保全権利の存否(その前提として、本件解雇の効力)について判断する。
1 当事者間に争いのない事実、本件疎明資料及び審尋の結果によれば、以下の事実が一応認められる。
(一) 債権者らは、本社工場で主としてミキサー車に乗務する待機債権者ら一六名、同工場で主としてダンプ車に乗務する債権者本郷、同松岡、那の津工場で主としてミキサー車に乗務する同渡、同浦元の二〇名から成るが、そのうち、債権者森ら九名の債権者らにおいて、平成三年五月二七日、労働組合を結成し、同日、右労働組合は、全国一般労働組合福岡地方本部に加入し、梅谷吉蔵産業分会(以下「組合」という。)として発足し、以後右九名以外の債権者らも組合に加入した。組合は、同日、債務者に対し、組合員の労働条件の改善、組合事務所の設置等に関する団体交渉を要求し、これに基づき、同月三一日、組合と債務者との間で、第一回団体交渉が開かれた。債務者側から本社工場長の古賀祐二郎が出席したが、同人は実質的な交渉権限を持たなかった。
(二) 債務者は、同年六月三日、債権者らのうち、組合分会長の債権者森、副分会長の同松岡ら四名に対し、そのような事情はないのに、ミキサー車の仕事がないとの名目で、糟屋郡久山町の山中にある久山砕石工場での作業を命じた。右砕石工場は、福岡営林署長が管理する国有地で、従前債務者は同営林署長の許可を得て、同所で採取した土石を買い受けていた。しかし、右採石により自然災害のおそれが出たため、右営林署長は、治山対策のため将来にわたり右砕石工場での採石をしないとの方針を決定し、債務者に対し、昭和六三年八月一九日以降の右砕石工場での採石及び土石の搬出を禁止するとともに、同砕石工場への立ち入りをも禁止した。これに対し、債務者は、右営林署長の措置を争い、国を被告として採石権確認等の訴えと借り受けていた土地の賃借権確認の訴えをそれぞれ提起しているところ、採石や土石の搬出はしないものの、同所に設置した機械設備の保守管理のため、右機械設備を作動させたり、その錆を落としたり、それに塗料を塗るなどの作業をする必要があったが、組合は、右砕石工場作業の業務命令を組合員差別であると強く抗議し、右業務命令の解除を強く要求したため、債権者森ら四名は、ようやく平成三年八月二九日、従前の職場に復帰することができた(この間、非組合員は右砕石工場に配置されなかった。)。
(三) 債務者は、同年六月一一日、非組合員全員に対し、課長昇格の辞令を発したが、組合員に対しては、右辞令を発せず、昇格させなかった。
(四) ところで、同年五月三一日から同年一〇月三日まで、労使間で八回にわたり団体交渉がなされ、債務者側からは、第七回までは前記古賀工場長が出席し、第八回は債務者相談役である梅谷宗儀が出席し、「すべての権限と責任をもって解消を図る。」旨表明したが、東京在住を理由にそれ以降の団体交渉に応じなかった。また、債務者代表取締役である梅谷吉幸は、結局、右各団体交渉に一度も出席しなかった。
(五) 同年一〇月三日の第八回団体交渉において、次回の団体交渉を同月二三日と合意したにもかかわらず、同日の団体交渉に債務者が応じなかったことから、組合は、同年一一月五日、債務者に対し、これに抗議するとともに、同月一一日からミキサー車について道路交通法を遵守して過積載運搬を拒否する旨通告をした。これに対し、債務者は、同日、ミキサー車に乗務していた待機債権者らに対し、勤務時間中は組合員待機室(本社工場にあり、広さ約二三平方メートルのプレハブ建物)に待機する旨命じ、更に、同年一一月分以降の賃金について、非組合員に対しては従来どおりの賃金基準で賃金を支給しながら、債権者らに対しては賃金基準を変更したと称して賃金の減額支給を行った。その結果、債権者らの賃金は、同年一一月分は、その多くが従来の賃金基準に比し一万円から三万円程度減額支給をされ、同年一二月分は、待機債権者らには全く支給されず、四名の債権者には従来の賃金基準より減額支給され(二七〇〇円から四万六九〇〇円)、平成四年一月分は、待機債権者らには従前の賃金基準よりも二〇万円以上減額の四万七〇〇〇円から五万五〇〇〇円程度が支給され、四名の債権者には三万五〇〇〇円から六万一〇〇〇円程度減額支給された。そのうえ、債務者は、平成三年度年末一時金について、待機債権者らには全く支給せず、四名の債権者にも本来の額よりも大幅な減額(八万九〇〇〇円から一五万一〇〇〇円)をして支給した。
(六) 組合は、同年一二月二日、福岡県地方労働委員会に対し、斡旋申請をなし、同月二五日、右委員会において、「一、賃金体系については、労使双方が早急に団体交渉を行うこと、二、待機債権者らは同月二六日から通常の業務につき、それまでの期間の賃金については、団体交渉により解決すること」等を内容とする斡旋案が提示され、組合及び債務者は、これを受諾した。
(七) しかるに、待機債権者らは同日以降も債務者から右待機室での待機を命じられたことから、平成四年一月一三日、組合は、右委員会に対し、再斡旋を申請したが(債務者も再斡旋を申請)、同年二月一七日、再斡旋は不調に終わった。
(八) 待機債権者らは、同年二月一七日、右委員会に対し、不当労働行為救済命令及び審査の実行を確保するための措置の勧告(以下「実行確保の措置の勧告」という。)の各申立てをなし、右委員会は、同年四月二〇日、「一、債務者は、待機債権者らに対し、非組合員と同様の乗務ができるように直ちに配車するように努めること、二、債務者は、右以外の労使間の懸案事項について、誠意をもって団交を行い早急に解決するよう努めること」との勧告を行った。
(九) 債権者らは、更に、同年二月二九日、福岡地方裁判所に対し、賃金等仮払を求める仮処分を申し立て、同年五月一四日、本件和解が成立した。
(一〇) 債務者は、本件和解成立後の同月一八日、待機債権者らのうち三名に対してはミキサー車乗務、一名に対してはダンプ車乗務、その余の一二名に対しては砕石工場作業を命じたが、非組合員に対しては、全員ミキサー車に乗務させた。同日から同年六月一七日までの配車状況については、別紙四配車状況一覧表1(略)、同月一八日から本件解雇に至るまでの配車状況については、別紙五同一覧表2(略)記載のとおりである。待機債権者らは、右配車割当は本件和解条項一項、二項に違反し、ダンプ車乗務及び砕石工場作業は不当な組合員差別であるとして抗議し、右砕石工場作業及びダンプ車乗務を拒否した(なお、債権者らが主張するように、同年五月一八日に債権者古川に割り当てられたダンプ車が、廃車予定で長く使用されていなかったという事実は、本件全疎明資料によっても、これを認めるに足りない。)。債務者は、同年五月一九日から砕石工場作業については業務命令ではなく協力要請とし、ダンプ車乗務及び本社(新宮)工場における構内作業を命じたが、待機債権者らは、右と同じ理由で、右各作業をいずれも拒否した。待機債権者らの就労拒否状況は、別紙六就労拒否一覧表(略)記載のとおりであり、この期間中に非組合員は右砕石工場には全く配置されていない。
(一一) 債権者松岡及び同本郷は、本件和解前からダンプ車に乗務していたが、和解成立後本件解雇までの間、組合の方針に従い、本社工場において構内作業の業務命令に従わなかった。同渡及び同浦元は、従前から那の津工場において、ミキサー車に乗務していたが、本件和解後、同様に、同工場において、清掃作業、夜間乗務等の業務命令に従わなかった。なお、同松岡及び同本郷については、ダンプ車乗務中、一日当たり一回から三回、いずれも一〇分前後の停車時間がある。
(一二) 債権者らが右就労拒否を継続している間、組合は、団体交渉を通じて債務者に本件和解条項違反行為の是正を求めるべく、債務者に対し、団体交渉の要求を再三行ったが、債務者は一度組合の意見を聞いただけで、実質的な団体交渉に全く応じようとせず、同年六月二五日、債権者らに対し、前記理由により本件解雇の意思表示を行った。
2 債権者らに対する解雇の効力
(一) 本件において債権者ら及び債務者が取った一連の行動を評価する前提として、本件和解条項について以下検討するに、平成四年五月一八日から同年六月一七日までの期間に待機債権者ら(従来、主としてミキサー車に乗務していたものである。)に割り当てられる車両は、ミキサー車及びダンプ車であって、ミキサー車に限定されるものではなく、割り当てられる車両の台数は双方を合計したものであること、右割り当てられる台数から、待機債権者らの中にはミキサー車等に乗務できないものが当然存在することになり、その場合、右乗務できない債権者らは、債務者の各工場におけるその他の作業に従事しなければならないことは本件和解条項一、二項の解釈上明らかであると言わなければならないし、砕石工場での作業についても、同所での操業が中止されている現状であっても、同所に設置された機械設備の保守管理は債務者にとって必要であるから、同所での作業も本件和解条項一項の「債務者の各工場におけるその他の作業」に含まれるものと解すべきである。
(二) そうすると、待機債権者らが本件和解成立後、ミキサー車乗務以外の、ダンプ車乗務、本社工場での構内作業、砕石工場での作業を拒否すること自体は、本件和解条項に違反するものと言うべきである。
(三) しかし、債務者は、別紙四、五の配車状況一覧表1(略)、2(略)記載のとおり、本件和解条項が適用される初日である平成四年五月一八日から、組合員に対し、本件和解条項所定の台数の車両を割り当てず、その後も本件解雇の意思表示をした同年六月二五日までの勤務日の大半(右配車状況一覧表1、2によると、勤務日三三日のうち二五日)について、本件和解条項に反した配車割当を行ったうえ、右初日から、車両を割り当てなかった一二名の待機債権者ら全員に対し、右砕石工場での作業を命じ、翌日以降も、協力要請という形式に変更したものの、同債権者らのうち数名を常に右砕石工場での作業に従事させようとした。
確かに、右砕石工場での作業は、前記のとおり、「通常の業務」に該当すると解されるが、右砕石工場は山中にあって操業を中止している状態にあり、債務者の従業員にとって同所での作業がもはや本来の業務とは言い難いものになっているばかりか、従来の経過をみると、債務者は、債権者らが組合を結成すると直ちに組合の幹部である債権者森ら四名に右砕石工場での作業を命じ、組合から組合差別であるとの抗議を受けて右業務命令を解除するまで、二か月以上にわたり、同所での作業に従事させたという事情があり、しかも非組合員には右作業に従事させようとしないという事情があるから、債権者らに対し、右砕石工場での作業に従事させることは、本件和解成立前に債務者において債権者らに対して行った昇進差別、賃金差別と同様に、債権者らが組合員であることを嫌悪し反組合的な動機に基づいてなされた債権者らに対する労働組合法七条一号所定の不利益な取扱いであると推認し得るものであり、また、非組合員に対しては、右作業に従事させようとしないことに照らし、本件和解条項三項の労働条件についての公平取扱い条項にも違反するものと認めるのが相当である。
(四) そうすると、債権者らのダンプ車の乗務拒否、各工場(右砕石工場を含む)での作業拒否は、本件和解条項に違反するものではあるが、ダンプ車の乗務拒否は本件和解条項の誤解に基づくものであり、その他の作業拒否は債務者の本件和解条項違反あるいは不利益取扱いという不当労働行為に対する抗議としてなされたものと言うべきであり、一方、債務者は、本件和解条項に初日から違反したうえ、前記砕石工場作業を命じる不当労働行為をなし、債権者らの右作業拒否を誘発し、職場の秩序を乱す原因を自ら作ったものと言うべきである。また、四名の債権者については、構内作業の拒否は、組合の前記抗議行動の一環としてなされたものであり、債権者松岡及び同本郷については、債務者の出発、帰社時刻等の命令違反については十分な疎明がないうえ、前記停車時間も一回当たり十分前後で、必ずしも怠業とは認め難いこと、債権者渡及び同浦元については、時間外勤務の命令に従わなかったことは、本件解雇の意思表示がなされるまで債務者において問題にしていたことが全く窺えず、四名の債権者については、待機債権者らに対する解雇と同時になされていることから、待機債権者らと同じ労働組合に属し同債権者らと行動を共にしたことが解雇理由とされたものと推認することができる。
(五) 以上によれば、債権者らの前記各業務命令違反の行為は、就業規則三四条九号所定の懲戒解雇事由である「業務上の指揮、命令に違反した職場の秩序を乱したもの」に該当するが、前記債務者の本件和解条項違反行為等に照らし、債務者の債権者らに対する本件解雇権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当としてこれを是認することができないから、解雇権を濫用し、あるいは、労働組合法七条一号所定の不当労働行為として無効と解するのが相当である。
二 次に保全の必要性について判断する。
1 当事者間に争いのない事実、本件疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者らは、本件解雇に至るまで、債務者から支給される賃金をほぼ唯一の収入として本人、妻、子供ら一家の生計をそれぞれ維持していたこと、本件解雇により賃金等の支払いを受けられないために、それぞれ生活に困窮していることが一応認められる。
右各事実によれば、将来の賃金に関して、債権者らに仮払いを受けさせる必要性を認めることができ、その額は、債権者らと債務者との間に賃金を巡る紛争が生じる前における平成三年八月から同年一〇月までの三か月の平均賃金の額(但し、吉川については、同年一〇月は病気欠勤のため、同年七月から同年九月までの平均賃金額)をもって相当と認められる。本件疎明資料によれば、右額は、それぞれ別紙一債権目録記載の金額であることが一応認められる。
しかし、将来における事情変更の可能性を考慮すると、さしあたり本件審尋の終了時である平成四年八月の翌月である同年九月から平成五年八月までの一年間の範囲で右各金額の仮払いを命ずるのが相当である。なお、本件解雇時から同年七月三一日までの賃金仮払いの必要性の疎明はない。
そうすると、賃金仮払いについては、平成四年九月から一年間の限度でその必要性が認められる。
2 ところで、債権者らは、右賃金仮払いとともに、雇用契約上の地位を有することを仮に定める仮処分を求めている。確かに、債務者は、現在、債権者らの就労を拒否しており、使用者の任意による雇用者の就労は期待し難いところであるが、本件解雇は債権者ら組合員に対する全員一斉解雇であること、本件解雇により債権者らは定職を失い、著しい精神的不安を被っていること、地位保全の仮処分決定を発することにより、今後、債務者が、組合との交渉を通じ、債権者らを職場復帰させる余地も考えられないわけではないこと等の事情からすると、本件においては、賃金仮払いに加えて地位保全をも必要とする特段の事情があると解すべきである。
三 結論
よって、本件仮処分の申立ては、主文第一項及び第二項の限度で理由があるから、事案に鑑み、担保を立てさせないでこれを認容し、その余の申立ては、保全の必要性について疎明がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき民事保全法七条、民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 石井宏治 裁判官 川野雅樹 裁判官 武笠圭志)